虹色のキャンバスに白い虹を描こう
彼女の音が穏やかに落ちる。
雲の流れを辿っていた視線をゆっくりと戻せば、彼女が僕につられるようにして空を見上げていた。
「私たちの見ている世界って、……視界って、キャンバスみたいだなって思いませんか」
唐突に問いかけられても意味が分からなかった。
僕が答えを迷っている間に、美波さんは次の言葉を紡ぐ。
「航先輩の絵を見た時、未完成だったキャンバスに絵の具が広がっていくような感じがして……私の目は、全然途中だったんだって思いました。これで終わりじゃない。これからいくらでも描き足していけるんだって」
彼女はやっぱり、よく分からないたとえをする。まるで自分の目が芸術作品であるかのように、自分が芸術家であるかのように。
治らない。治らないのだ。先天性のものは、この先一生治ることはない。死ぬまで抱えていくしかない。
「みんなが見ているのは、元から全部の絵の具が揃った虹色のキャンバスかもしれないですけど、私だって、誰だって自分のキャンバスを持っているから……それがある限り、何度でも描き直せる。だって、私は見えたんです。航先輩の絵が、色が」