虹色のキャンバスに白い虹を描こう


彼女が嘘を言っているようには見えないにせよ、理解できるかどうかはまた別の話であった。

僕の絵を見た瞬間、色覚を取り戻したとでも言うのだろうか。あり得るはずはないし、そんな話を聞いたこともない。


「航先輩が美術部をやめたのは、目のせい……ですか?」


もしそうだと言ったら、彼女はどうするのだろう。もしそうだったとしたら、どれ程ましだっただろう。


『見て分かんないの? おかしいよ。あんたが何言ったって絶対におかしい』


僕はもう、戻らない。戻るべきではないし、戻る資格もないのだ。

この世界が汚れているわけでも、僕の見ている世界が汚れているわけでもない。本当に汚れているのは、僕自身だ。
そんなことは分かっている。分かっていながら、ひたすらに抗った。深い泥沼の底で、絶対に自分では手に入れられない綺麗さを求めていた。

清く正しく生きること。僕にはできないこと。
強く焦がれて、妄信して――最後には、全て壊した。


「……違うよ」


彼女の追及から逃れるようにして立ち上がる。

怖いと思った。彼女に知られるのが、知られてしまうのが。それによってどんな顔をされるのかも分からなかった。

彼女は、――美波さんは、きっと綺麗な人間であるだろうから。

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