虹色のキャンバスに白い虹を描こう


全ての画用紙を貼り終えて一息つきがてら、質問を投げる。
僕の意図をはかりかねてか、彼女は首を捻った。


「何がですか?」

「美波さんの絵はないの?」


小学生の絵は何となく分かる。恐れも何もない力強さが随所に滲んでいるからだ。ルールに捕らわれない、否、知らないのだろう。
中学生になると周りと自分の差異を気にし始めて、落ち着いた線やタッチが増える。

一つひとつの絵を観察しながら貼っていたけれど、彼女の絵は見当たらなかった。


「どうして……分かったんですか」


やや細い声だった。彼女の瞳は大きく見開かれていて、純粋な驚きが読み取れる。


「いつもスケッチに付き合ってるんだから、分かるでしょ。美波さんの描く線の流れくらい覚えてる」


彼女とのスケッチ特訓も、もう十回を数えた。まだまだ観察力は足りないにしろ、最近だと初歩的な指摘は少なく済むようになってきたところだ。

とにかく彼女は線を紡ぐのが遅くて、それは逆に丁寧であるともいう。勢いで描く、感覚で描く、といったことは絶対にしないくせに、彼女のスケッチは全く写実的ではなかった。それなのに、なぜか納得できてしまう。
彼女は僕とは違う特別なフィルターを持っていて、それを通して僕らの知らない対象物の本当の姿を、鉛筆一本から生み出しているかのごとく。整然と、そうなるのが当たり前のように、水が流れるように描くのだ。

このギャラリーの中に、水は流れていない。

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