虹色のキャンバスに白い虹を描こう
美波さんは呆然と僕の顔を見つめていた。彼女の目が光を取り込んで揺れている。
「……あは、びっくりしました。まさか航先輩がそんなこと言うなんて」
目尻が親しげに歪む。に、と口角を上げて、彼女が自身の頭を叩いた。
「いやぁ、実は美術部の方のアクリル画制作でいっぱいいっぱいなんですよね! 本当は私も今日のために何か描きたかったんですけど」
最近スケッチばかりで忘れかけていたけれど、そもそも彼女からは「絵をみて欲しい」と依頼されてからが始まりなのだった。
ああ、そういうこと、と適当に返して、僕は言い募る。
「そろそろ題材決めて下書き始めないとまずいんじゃないの。特に美波さんの場合、作業時間が人の倍はかかりそうだから」
「あ、それに関してはご心配なく! 実はもう何を描こうか決めてあるんです」
「……へえ」
意外だった。あれもいい、これもいい、などと言って延々と悩んでいそうな印象を勝手に抱いていたからだ。
確かに思い返せば、彼女はアイスの味を選ぶのも服を決めるのも、さほど時間をかけていなかった。決断は早い方らしい。
安心して下さい、と前置きした美波さんは、続けて述べた。
「その絵を描き終えたら、もう航先輩の邪魔はしませんよ」