虹色のキャンバスに白い虹を描こう
周囲の話し声が大きくなる。否、彼女との間に沈黙が落ちたのだと、すぐに気が付いた。
絵を描き終えるまで。彼女と僕は、そういう刹那的な契約を交わした。むしろそれを望んだのは僕の方である。
この短期間で様々なことがあったとはいえ、忘れかけていた自分に驚いた。夏も秋も、その先の冬も――彼女なら「紅葉狩り行きませんか? まあ私たち、赤い葉っぱ全然見えませんけど!」と宣うところまで容易に想像できてしまう。
「……そうだったね」
本来はそのはずなのだ。自分に言い聞かせるように、彼女の言葉に頷く。
「何の絵を書くの?」
彼女の真っ直ぐな視線に怯えている。本心を覗かれているような気がしてしまう。そんなわけはないのに。
自分から投げた問いは止まった空気を誤魔化しているようで、そのことに少し歯痒さを覚えた。
「ふふ。秘密です」
「は?」
「航先輩には一番に見てもらいたいので、待ってて下さいね!」
悪戯っぽく唇の前で人差し指を立てた美波さんは、「もうそろそろ開場ですよ」と話を畳んでしまった。