虹色のキャンバスに白い虹を描こう
今日のイベントでは、まず最初に合唱サークルの演奏が披露されることになっている。
曲目は「Believe」。小学生の時に大体の人が、一度と言わず三度は歌う曲だ。
「今日のために、みんなでいっぱい練習しました。歌と一緒に、手話にも注目して聴いて下さると嬉しいです」
緊張しているのか、やや硬い表情で挨拶をした少年が頭を下げる。
指揮者が壇上に登り手を振り上げれば、ピアノの前奏が場内に流れ始めた。
聞き慣れた音の並びとメロディー。けれども彼らは必死に手を動かして、口だけではなく体で歌っていた。
目一杯大きく動いている少女がいれば、自信なさげに腕や指を動かしている少年もいる。
ふと隣の気配が揺れたような気がして視線をずらすと、美波さんが自身の胸の前で小さく手を動かしていた。それが目の前の少年少女と同じ動きだというのを、すぐに理解する。
彼女の横顔はその時、随分と大人びて見えた。
「手話、分かるんだ」
演奏が終わった後、そう聞いた僕に、美波さんがはにかむ。
「見てたんですか? こっそりやってたのに」
「別に堂々とやればいいんじゃない」
「小学生の時に授業でこの曲の手話だけ習ったんです。普通の会話とかはできないですよ。あ、自己紹介ならできます」