虹色のキャンバスに白い虹を描こう
相手の望んでいる回答を寄越したつもりはないのに、彼はどことなく納得した顔つきだった。それが少し気に食わなくて、意図せず唇を噛む。
「メリットはあったか?」
俯いた僕に、彼が問う。
『それをして、僕に何のメリットがあるんだよ』
あの日、そう文句を垂れた。
美波さんといることに、何かメリットを見つけた――だから彼女といることを選んだ。と、彼は思っているのだろう。僕の発言を踏まえれば、そう考えるのは当然というべきか。
『理由なんていちいち考えます?』
『メリットがあるから行動を起こすんだよ』
彼女との会話を脳内で反芻する。
人の考えなんてそう簡単には変わらない。僕が以前彼女に告げた意見も、未だに自分の中で息をしている。
頭では十二分に理解しているはずだった。だけれど、だったら、僕の行動はどういう理由付けをすればいいのだろう。
彼女を怒鳴った廊下。紙切れに書かれた住所を辿ってしまった休日。咄嗟にさらった赤のクレヨン。
ともすれば全部デメリットしかなかったんじゃないのか。あれはどう言葉を尽くしたって、「衝動」という二文字以外の何物でもなかった。
「……メリットは、ない」