虹色のキャンバスに白い虹を描こう


以前彼が僕に告げたのと、一語一句違わぬ文字列が口から漏れる。


「もうどうでもいい。そもそも、メリットなんて期待する方が馬鹿だった」


この兄妹に僕の価値観なんて通じないのだ。彼らも彼らで、平然と僕に自らの価値観を押し付けてくる。
どちらが正しいか白黒つけようとすることは、本当に無駄で不毛だ。馬鹿馬鹿しい。どちらも正しくないし、間違ってもいないのだから。

何を信じたいか、信じようとするか、の違いである。


「ああ、それでいいよ。お前はそれでいい」


赤子をあやすような口調で、彼が言う。


「損得勘定で生きるのは、苦しいからな」


なぜ、と聞き返すには、あまりにも確信に満ちた感想だった。
彼の表情は苦笑ともとれるし、泣き顔ともとれる。もちろん、涙なんて一滴も零れていなかったけれど。

返答に困るのは何度目だろうか。彼と話しているときは、常に困っているような気もする。

そういえば、美波さんはどこへ何をしに行ったのか、と質問を投げようとした時だった。


「うははっ、待て待て、待てってー!」

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