虹色のキャンバスに白い虹を描こう


ばたばたと大きな足音を立て、目の前を通過していく男子小学生が数名。それに続いたのは、きっと彼らと同じ年代であろう一人の車椅子の少年だった。

パンフレットが一枚、床に舞い落ちる。
僕の足元に滑って着地したそれを拾い上げ、今のやんちゃ集団の中の誰かのものだろうか、とすぐに見当はついた。

追いかける気力はなかったので、一番後ろにいる車椅子の少年に声をかけることにする。


「ねえ、君」


僕の呼びかけに、振り返る背中はなかった。聞こえなかったんだろうか、あるいは「君」だと抽象的すぎたかもしれない。


「ねえ。そこの、茶色の服着た君」


そう丁寧に言い直し、僅かに声のボリュームを上げる。
仕方なく追いかけ、なおも振り返らない彼の肩に手をかけると、少年の瞳が僕を捉えた。


「え、おれ?」


戸惑いの色が拭えない彼の様子に、こちらも面食らう。
すると、先を走っていた少年たちのうち、一人が口を開いた。


「おにーさん、ナオトが着てるの、それ茶色じゃなくて赤ですけどー!」


元気な声だった。それこそ、会場中に響き渡ったんじゃないかと思うくらい、純粋無垢で何の他意もない言葉だった。

だからこそ、僕もすんなりと言えてしまったのかもしれない。


「ああ、ごめん。僕、色がちゃんと見えないから」

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