虹色のキャンバスに白い虹を描こう
奥からの呼びかけに、彼が「分かったー!」と声を張る。
「じゃあ、ありがとうございました」
礼儀正しく頭を下げた少年の腕が、車輪を回す。
遠ざかっていく背中を眺めていたら、唐突にガシリと頭を掴まれた。そのまま髪を掻き乱され、慌てて払う。
「……何だよ」
僕の睨みに物怖じしない相手は、案の定一個上の「先輩」で、彼はなぜか上機嫌だった。
「いーや? なんつうかまあ、お前が子供に好かれる理由分かったかもしんないわ」
「好かれてない」
「素直すぎるからじゃねえかな、多分」
聞いてんのかよ、人の話。
鬱陶しい、という念を込めて精一杯白けた視線を送るも、彼はどこ吹く風である。
「わたるお兄ちゃんか~、ウケるな」
「は?」
「お前、全然兄ちゃんってキャラじゃないのに」
「シスコンのあんたに言われたくないんだけど」
僕が反抗した瞬間、彼は散々撫でまわしていた僕の頭から手を離した。
「あんたじゃなくて、純、な」
お前には特別に呼び捨て許可してやるよ、と頬を緩めた彼が、いつかの彼女と重なる。
『あんた、じゃないですよ。私は、美波清です』