虹色のキャンバスに白い虹を描こう
白先輩と話す口実が欲しくて、僕はいつも彼女に「アドバイスを下さい」とくっついて回った。
その度に、白先輩は決まってそう返してくる。
「僕、白先輩の絵が好きなんです」
それ以外、適切な表現が思い浮かばない。好き、と口に出してから、むず痒くて体がじんわりと熱くなる。
特別上手いとか下手とか、技術的な観点ではなく、彼女の描く絵は、とても綺麗に見えて仕方がなかった。
清廉で純粋。感情の波が穏やかで、この人には欲があるんだろうかと不思議に思う。――だから、
「白さん、カミヤくんと付き合ってるらしいよ」
そんな噂を耳にした時、頭を殴られたような衝撃を受けた。
カミヤ、というのは当時、白先輩と同じクラスだった男子生徒だ。素行が悪いと有名で、女子をとっかえひっかえして遊んでいるという話も聞いた。
そう、まさに、父親のような男だった。
やっぱり、どこにだってクズはいる。
ガラスは割られるのがセオリーだし、ドミノは倒すまでがゴール。綺麗なものは、汚さずにいられない。
僕の両親はそうやってバラバラになった。母を守るのは、綺麗なものを綺麗なまま守るのは、僕の務めであり義務だ。
「――白先輩を穢す奴は、例え誰であろうと許さない」