クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
パート1
「また、会社に泊まってしまった……」
朝日が差し込むオフィスで、美馬航は独り呟いた。
10年ぶりの東京だというのに、何処にも出かけていない。
このひと月は殆ど高層ビルの中にあるオフィスで過ごしている。
せっかく購入したマンションへも荷物は届いているだろうが、
持ち主である自身は足を踏み入れた事が無かった。
「睡眠不足が応える年になったな」
着換えは秘書の芳賀陽介が買ってくる物で補うし、
食事も彼が準備する弁当やサンドイッチばかりだ。
「もう、限界だ」
美馬航は、アメリカに本社があるM&Aを手掛ける会社に勤めている。
コンサルタントとして様々な業種に関わってきたが、
今回の仕事では、吸収合併後の会社を任されたので多忙を極めているのだ。
同族会社だった『佐柄物産』は、
優秀な後継者がいなかった為、アメリカ資本を求めた。
上手く大手貿易会社に吸収合併され傘下に入れたが、
これまでの業務に曖昧な点が多く、特に財務部門がガタガタだった。
使途不明金を明らかにするだけで大仕事だ。
その為、日本企業に詳しいだろうからと美馬が責任者として日本へやって来たのだ。
美馬は、もう10年も日本へ帰っていなかったというのに。
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