クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
甘い新婚生活がスタートした。だが、幸せ過ぎたせいかもしれない。
突然、就職したばかりの航の勤め先が倒産したのだ。
大手の金融関係だったから、まさかと思った。
航も大きなショックを受けていた。結婚したばかりで、まだ貯金も無い。
航の母親はパートで勤めていた司法書士事務所の所長と再婚していたが、
彼は母の家庭に援助を頼むつもりは無かった。
彼は仕事探しに追われたが、不況の煽りで中々決まらない。
理系の梓はその頃大学院へ進んでいたが、大手進学塾の講師として働き始めた。
梓は結婚した以上、夫の為に妻が働くのは当たり前だと思っていたから
院をやめた事など何とも思わなかったのだが、航は違ったようだ。
妻に働かせて、自分が無職でいる事に耐えられなかったのだ。
受験生の指導で夜遅くなる梓と、中々次の就職先が見つからない航の間に
少しずつ、不協和音が流れるようになった。
航は意地になったのか、妻に対して尊大で冷たい態度を取るようになった。
元々無口なタイプだが、梓が何を言っても無視するし、
何を聞いても言葉は返ってこない…。
毎日些細な行き違いや言葉の棘の積み重ねで、梓は疲れ果ててしまった。
身体だけは繋がっていたが、心は繋がっているのかどうなのか…。
疑問を感じた梓は、実家に帰ってしまったのだ。
航は、ひとり新居に残されて…反省したが、傷ついてもいた。
『自分には、女ひとり養えない…。』
お互い、若さで意固地になっていたのだろう。
『許す』事も、『譲る』事も考えられなかったのだ。
梓が実家に帰った事、それが半年で二人が別れるきっかけだった。