クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!


カレーの良い匂いが漂い始めた頃、まず、兄嫁の佳苗(かなえ)が帰ってきた。

「お帰りなさい、お義姉さん。」
「あ、梓ちゃん。今朝は急に頼んでゴメンねえ。」

「いえいえ、お役に立てて良かったです。」
「ホント、助かった! あの会社とはセキュリティーも含めての契約なの。
 今日に限って人材がいなかったから、契約に穴が開くとこだったわ。」

義姉の佳苗は、グッド・クリーンの専務として働いている。
パソコンが苦手な良子に変わって、経理からスタッフのスケジュール管理まで
幅広く責任を持たされているのだ。
おまけに掃除の腕も一流で、社員を見る目は厳しい。

「今度、お礼するね。」
「こっちこそ、美晴を預かってもらってるし、フィフティーフィフティーですよ。」

「そう言われたら、また頼っちゃうよ。」
「受験シーズン以外なら、私も時間が合えば大丈夫ですから。」

「助かるわ。何かあったら、ホントお願いね。」

梓は、離婚後も大手進学塾の講師を続けていた。
収入もけっこう良いし、美晴を育てるのに時間的にも都合が良かったからだ。

専門の分野からは離れてしまったが、
梓は小学生から高校生までの受講生と接するのは大好きだった。

勉強を教えて、子供達が理解してくれた時の達成感もたまらないが、
学生ならではの、何気ない会話に元気をもらっていた。

好きな人が出来たとか、あの子が気になるとか…

自分とは違う年代の彼らから、青春の話を聞くのは新鮮で楽しいものだ。
梓と同じように、彼らにも恋をした記憶が心に残っていて欲しい。

梓自身、離婚はしたが美晴を産んだことへの後悔は微塵も無い。
逆に、あんなに恋した相手の子供がいる事が誇らしかった。

美晴にもいつも話していた。

『お母さんは、あなたのお父さんが大好きだったんだよ。』

でも、今はお父さんより大切なものが出来たから大丈夫。
美晴がいてくれるだけで、お母さんは幸せで嬉しいんだ。

そんなメッセージを、美晴にはいつも伝えるようにしていた。

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