クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
かなり遅くなってから、兄が帰ってきた。
父が亡くなった後、会社を受け継いだ兄は数年で会社の規模を大きくした。
やり手と言えるかもしれないが、時代をよく見ていたのだろう。
若い頃保母をしていた良子は、結婚してからは働くお母さんの為にと
家政婦の派遣業をしていたのだが、兄が『屋代警備保障』を受け継ぐとすぐに
家政婦派遣業をビルや家のクリーンサービスに切り替えた。
兄のセキュリティー会社の子会社に昇格させたのだ。
それが良かったのか、今や『屋代セキュリティー』は引く手あまただ。
「あれ、梓。今日はこっちに泊まる日だったかな。」
梓が受験シーズンで忙しい時や夏休みに勉強合宿に行く時など
美晴が実家でお泊りする事になっている。
その時は梓もこちらで泊まるので、健吾は今日もそれだと思ったらしい。
「お帰り、お兄ちゃん。ご飯は?」
「え…と、済ませてきた…。」
「ふうん、いつも連絡ナシなの?佳苗さん?」
「え、ええ。まあ…。」
「最低ね…。」
「健吾さん、忙しいから…。」
妻が庇ってくれたが、
妹の冷たい目線を受け、健吾はいい話では無さそうだと気がついた。