クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
パート3

 今日は、秘書を通して依頼したマンションの片付けの日だ。
アメリカから送りつけたままになっている荷解きを業者に頼んだのだ。

早朝にホテルからマンションに帰ってきた美馬航(みまわたる)は、
約束の時間前には、今か今かとインターフォンが鳴るのを待っていた。

「何そわそわしてるんですか?社長?」
「別に…。」

航の行動を見ていた芳賀は、呆れたていた。
大きな男が、段ボールの間をウロウロと歩き回っているのだ。

「荷物片付けてもらうだけでしょう?」

「そうだが…。」


『梓に、もう一度会える…。』

航の気持ちは早くも期待と不安で一杯だった。

その時、待ちかねたチャイムの音がする。

「おはようございます。グッド・クリーンです。」

インターフォン越しに、女性の声が聞こえた。

秘書の芳賀陽介が玄関に出て、清掃スタッフを出迎えた。

まばらな家具だけのリビングで、梓を待ちわびていた航だが、
中に入ってきたスタッフの顔を見て首を傾げていた。

『あれ、梓を指名したのに…?』

怪訝な顔をした航に、リーダーらしい女性が声を掛けてきた。

「おはようございます。グッド・クリーンの屋代佳苗(やしろかなえ)と申します。
 本日はご依頼いただきましてありがとうございます。」

女性にしては上背のある佳苗は、よく響くアルトで堂々と名乗り名刺を差し出した。

「専務の、屋代(・・)佳苗さん。ですか?」

「はい、この度ご指名いただきました屋代(・・)でございます。
 主人ともどもお世話になっております。」

「ご主人…ああ、健吾さんの…。」
「はい、家内でございます。どうぞよろしくお願いいたします。」

ハキハキと挨拶する佳苗を前に、航の顔は引き攣った。

『間違えた…』


< 23 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop