クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
同じ金曜日、屋代健吾は『屋代セキュリティー』の代表として
美馬航の前に座っていた。
アメリカ本社から視察の為に来日するディック・マーレーCEOの、
視察場所や会合のスケジュール調整をしていた。
大まかな行程とCEOが立ち寄りたい場所を組み合わせ、ルートの警備を考える。
CEOはかなり気まぐれで、中々スケジュールが決まらす計画は難航していた。
「来日まで二週間を切りましたから、これ以上の変更はお断りして下さい。」
「わかった…。本社にも良く伝えておきます。」
「では、最終打ち合わせをいつするか日程調整を…。」
航と健吾の間に他人行儀な空気が流れる。
かつては、共に飲み明かした義兄と義弟だったが、今は仕事上の関係だけだ。
「…本日はお疲れさまでした。これで失礼いたします。」
会議が終わり、健吾は警備担当社員達を連れて社長室から出ようとした。
「屋代さん、…健吾さん。」
航がためらいがちに名前を呼んで、声を掛けた。
「少し、お時間頂けませんか?」
航の秘書の芳賀も、突然の申し入れに驚いていたが
二人の間にある緊張した雰囲気を察して席を外した。
芳賀達が部屋から出ていってから、改めて航と健吾は二人だけで向き合った。