クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
その物騒な会話が終わる頃、玄関のチャイムが鳴った。
大人達にピリッと緊張が走る。
何となく三人がいつもと違うなあと思いながら、美晴はリビングへ戻った。
今日預かっているのは、パート社員の息子でいたずら盛りの3歳になる拓斗だ。
拓斗は美晴が大好きなようで、片時も側から離れない。
美晴も下の子の面倒を見るのが上手くて、拓斗と仲良く遊んでいた。
子供の声が微かに聞こえる中、和室では大人たちが沈黙の中にいた。
ダークスーツの航は、仏壇に線香を手向けて良子に香典を渡している。
「航さん、わざわざありがとう。もう何年も経ってるのに覚えていてくれて。」
「いえ、お義父さんにはとても可愛がっていただきましたから。
アメリカにいたので存じませんで…失礼しました。」
「まあ、アメリカに…。」
「ひと月前に10年ぶりに帰国しました。先日、ご不幸があった事を知りまして。」
佳苗が茶を運んできて座り、四人が改めて顔を合わせた。
「美馬さん、妻の屋代佳苗です。半年前にやっと結婚しまして…。」
健吾が照れくさそうに紹介した。もう40近い健吾はやや遅い結婚だった。
「屋代佳苗です。美馬様、先日はご依頼下さってありがとうございました。
マンションで何かお気に召さない所はございませんか?」
「いえ、特には…。」
「今後も、屋代セキュリティー共々、よろしくお願いいたします。」
ニッコリと佳苗が笑って頭を下げた。
航が聞きたい話は出て来ない。これは、早く帰れという事なんだろう。
その時、廊下を走るパタパタという小さな足音が聞こえてきた。
「拓ちゃん、ダメだよ。パンツはかなくちゃ!」
ガラッと襖が開いて、下半身まる出しの拓斗が入ってきた。
大の字で立っている拓斗は、何だか自慢げだ。
屋代家の大人たちは、何とかこの場をやり過ごそうと焦るのだが、
拓斗が可愛いのと、どうやって切り抜ければいいのか三人とも言葉が出ない。
拓斗を捕まえようと、すぐ後ろから追いかけて美晴が和室に入って来たのだ。