クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
「子供か…。」
航は思いを巡らせながら、近くの駐車場に止めていた車までゆっくりと歩いた。
10年前と変わらず、家庭的な匂いに溢れた屋代家だった。
学生時代に初めて挨拶に行った日から、彼が望む『家庭』がそこにはあった。
父親を早くに亡くした美馬家は決して豊かではなく、
それまで専業主婦だった母が必死で働いて彼を育ててくれたのだ。
その事は感謝しているが、精神的な苦痛は感じていた。
パートの掛け持ちで金銭的に余裕が無いせいか、母は良く航に言った。
『あなたを妊娠したから、仕事を辞めて結婚したのよ。』
つまり、父とは結婚せず正社員の仕事を続けたかったのだろう。
自分の人生が子供を産んで変わってしまった事を、母は悔やんでいたのだ。
父と母の様な、子供が出来たからという打算的な結婚は嫌だった。
自分は好きな女と結婚して暖かい家庭を作りたい。
妻には、母の様な後悔をさせたくなかった。