クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
パート4
その夜、仕事が終わって午後10時過ぎてから梓は帰宅した。
実家の玄関を入ると、珍しく和室から微かなお線香の匂いがする。
秋の彼岸はとっくに過ぎたし、珍しい…。
母の良子も健吾夫婦も信心深い訳ではないので、線香を焚くのは滅多に無い事だ。
「ただいま。」
「あ、お帰り~梓。」
「梓ちゃん、お帰りなさい。」
リビングへ顔を出すと、いつものように兄夫婦がソファーで寛いでいた。
「お客様があったの?お父さんにお線香あげて下さったのかな?」
「ああ…。それは…その…。」
のんびりとビールを飲んでいた健吾と佳苗が固まっている。
二人して目配せして、どちらが話すのかお互いに促している様子だ。
「どうかした?」
怪訝そうな梓の声に諦めたのか、健吾がため息をついた。
「今日の夕方、航君が来て、親父に線香をあげてくれたんだ。」
「はあ?どうして?」
思わず梓の言葉使いが荒くなる。兄に文句がある時はいつもそうだ。
「最近になって、親父が6年前に死んだことを聞いたらしい。それで…。」
「今日って、美晴を預けてたよねえ。預けるって前からお願いしてたよね。」
「えっと…。」
畳みかけるように梓が健吾の言葉を遮った。健吾は口を噤む。
「偶然、会っちゃったけど、美晴ちゃんが自分の子だって気がつかなかったみたいだわ。」
夫を見かねて、佳苗が助け舟を出した。ストレートな物言いだ。
隠さず、ありのままを話す気になったらしい。