クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
「ゴメンね。隠す訳じゃなかったんだけど、言いにくくて。」
「何があったんですか?」
「健吾が、航さんからの申し出を断れなかったのよ。
大人だけで話して、直ぐにお帰り頂くつもりだったんだけど…。」
健吾は、妻に言い訳を任せる事にしたようだ。
「絶妙なタイミングで拓斗君が座敷に飛び込んで来たのよ。」
「すまん。まさか美晴ちゃんが、拓斗を追いかけて座敷に入ってくるとは…。」
何となく状況が梓にもわかってきた。
確かに、航が屋代家に来たのはイレギュラーな出来事だった。
「でも、あの人は気がつかなかったんだよね…。」
「ええ…私達も必死で誤魔化したし。」
「あんなにそっくりなのに…わからないものなんだね…。」
梓はホッとするような、情けないような複雑な気持ちだった。
航に子供の事を伝えないと決めた日から、美晴が大きくなって、
いつか父親について聞いてきたらどうしようかと悩み続けてきたのだが…。
お互いそれとは知らずにバッタリ会ってしまったのか。
「もし美晴が航と会ったら、彼に知られてしまうって思い込んでたから…。
取り越し苦労だったかも。元々、子供の事なんて考えてなかった人だし。」
「梓ちゃん…。」
「すれ違っただけなら、仕方ないわ。」
「でもな、梓。彼はお前に会いたがっている様だぞ。」
「会って…どうしようって言うのかな。何て挨拶するの?お変わりない?」
「ハハッ、それいいんじゃない。お元気ですか?とかさ。」
佳苗が重苦しい空気を吹き飛ばすように笑いに変えてくれた。
その夜は、もう誰も航の話を続ける事はなかった。