クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!


 竹本夫妻は、美晴の事は知っている。
妊娠がわかった後、離婚届を準備しながら航が何を言ったかも伝えている。

あの日は、辛くて惨めだった。梓は泣きながら二人に話したのだ。
由梨は一緒に泣いてくれ、信也はずっと無言だった。
二人はこの10年もの間、秘密を共有してくれた得難い友人だ。


 由梨とは大学の頃から何でも話してきたから、お喋りが止まらない。
連絡は取り合っていたが、会って話すのは久しぶりだから余計に会話が弾む。

「美晴ちゃん、大きくなったでしょう。」
「写真見てくれる?」

スマートフォンの画面を由梨に見せると驚いた表情になった。

「小さい頃は梓に似てると思ったけど、アレにそっくりじゃない!」
「…やっぱり、そう思うよねえ…。」

「何かあった?」
「偶然、屋代の実家で会っちゃったのよ。」
「ひえっ!アレと美晴ちゃんが?」

他人にもし聞かれたらと気をつけているのだろう、由梨は航をアレと呼ぶ。

「でも、あの人…わからなかったみたい。」
「そんな…。」

学生時代からロマンチストだった由梨は、ドラマの様な展開を期待していた。
血の繋がりがあれば、会えば一瞬でお互いが親子だとわかると信じていたのだ。

「わからなかったのか…。」
「ま、私としてはそれで良かったけどね。」

「でも、なんで航が屋代家に?」

「つい最近になって、父が亡くなってた事を聞いたみたいなの。」
「もう、5,6年になるかしら。お亡くなりになって。」

「うん。突然だったから…。気持ちの整理がねえ…結婚だ離婚だ子供だって
 父にはすごく迷惑かけてたから。」

「でも、お孫さんの顔が見られてお父さん喜んでたじゃない。」
「そうね、それだけは良かったかな…。」

「美晴ちゃんにも会いたいから、うちの社宅にも遊びに来てね。」

「ありがとう、由梨。私も(たかし)くんに会いたいわ。」

「次のお休みいつ?」
「平日なの。毎週火曜日が一日お休み。」
「じゃ、来週の火曜日、是非来てよ。美晴ちゃんの学校が終わってから。
 ゆっくりお喋りしようよ。うちはダンナいつも遅いし。」

「お言葉に甘えちゃおうかな。」

「約束!」


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