クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
「あれでモテるのよ、うちのダンナ。社宅にいると色んな噂が耳に入ってきて、
社内の若い子とどうしたとか…聞きたくもないのに聞かされるの。」
「まさか!」
「噂ばっかりで、時々、嫌になっちゃうわよ。」
「あの真面目な竹本君に、浮気疑惑?信じられないんだけど。」
「梓だって、もしあのまま航の奥さんだったらどうだったかわかんないよ。
アレはかなりモテるから、浮気の心配で毎日大変だったと思うよ。」
「そう…かな?」
「あ、ゴメン。」
つい気安さから余計な事を言ってしまい、由梨は慌てて梓の顔色を見た。
彼女の表情は変わらないが、昔の傷に触れてしまったかもしれない。
「いいのよ、もう関係ない人だし…。」
由梨の考えている事は梓にもわかったので、平気な顔をして笑ってみせた。
ふと、梓が腕時計を見ると、午後5時になろうとしている。
「長居しちゃった。晩御飯作る時間でしょ。そろそろ失礼するわ。」
「良かったらまた来てね、絶対よ。ダンナにも会って欲しいし
美晴ちゃん、うちの卓と仲良くなったみたいだからいつでも預かるよ。」
「ありがとう、由梨。浮気疑惑の竹本君によろしくね。」
二人で顔を見合わせ、今度は屈託なく笑った。
だが梓にはわかった。
由梨はヘラヘラ笑っているが、夫の事を本気で心配しているのだろう。
今度は竹本の顔も見なくちゃと、梓は思っていた。
「下まで送るわ。美晴ちゃんのランドセル持って降りよう。」
二人は社宅の3階にある竹本家から、中庭に向かってゆっくり階段で降りた。