クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
秋の日暮れは早い。辺りは薄暗くなってきたが、
社宅の中庭は何基もある街灯に照らせれて思ったより明るかった。
美晴は初めて会った子供達と仲良く鬼ごっこをしていた。
身体を使った遊びが大好きで活発な美晴を、梓が何とか捕まえた時、
駐車場に一台の黒いドイツ車が滑るように入ってきた。
音もなくゆっくりと止まると、中から竹本慎也が降りてきた。
「どうしたの?信也!こんな時間に帰って来るなんて!」
帰宅は遅いと思い、夕食の支度をしていなかった由梨が焦っている。
サラリーマンに不似合いな高級車から降りてきた竹本は、上機嫌だ。
「いやあ、取引先で懐かしいヤツに会っちゃって、送ってもらったんだ。」
「久しぶり。元気そうだな。」
運転席から降りてきたのは、美馬航だった。
ふと、彼の目線が女の子の手を引いている梓に向いた。
「梓…。」
航の声に、竹本も目を向けた。すると一瞬で呑気だった表情が強張った。
偶然とはいえ、梓と美晴がこの場にいたのだ。
事実を知る竹本夫妻はどうする事も出来ず、ただ見守るしかなかった。
「あ、おばあちゃんちで会った人だ!」
その時、無邪気に美晴が声をあげた。
「こんにちは!」
「ああ、君は…。」
航は無言のまま、自分に明るく挨拶してくれた女の子を見つめた。
以前この子を見かけた屋代家では、一瞬の事だったのでわからなかったが
あの目元…毎日見ている自分の目にそっくりじゃあないか。
「屋代美晴です。」
「みはる…ちゃん。いい名前だね。みはるちゃんはいくつかな?」
「もうすぐ10歳です。三年生よ。」
「そうか…。」