クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
パート5
「梓、話がある。」
「もう、家に帰るところなのよ。ごめんなさい。」
「いや、君には俺に話す事があるはずだ。」
航の声は、ぞっとするほど冷たかった。
「お母さん、この人知ってるの?」
「うん、チョッとね…。」
何も知らない美晴は、何処までも無邪気だ。
「送るから、乗って。」
航が車の後部座席を開けながら、梓を睨むように見た。
どうしようか梓が思案していると、美晴が嬉しそうに言った。
「わあ~、この大きな車に乗せてもらえるの?」
少女の弾んだ声に、航は怒りで周りが見えなくなっていた事に気がついた。
純粋に高級車を前に喜んでいる少女。笑顔で瞳がキラキラしている。
『可愛いな…。』
航は自分の胸に浮かんだ、少女への愛おしさに眩暈がしそうだった。
『俺の娘…』
身体中の血が滾るような熱くもどかしい気持ち。
それとは逆に、一気に募っていく梓への底知れぬ憤り。
「お母さん、送ってもらおうよ~。」
美晴には、何の罪もない。ただ、楽しそうにその場にいるだけだ。