クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!

 背の高い美晴はもうジュニアシート無しでも大丈夫だ。
航が開けたドアから、後部座席にスポンと乗り込んでしまった。

「お母さん、早く~。」

梓は助けを求める様に竹本夫妻に視線を送ったが、
二人はさっき固まったまま、黙ってこちらを見ているだけだった。

「君は、助手席。」

ドアを開けて、航がいかにも『乗れ』と催促している。

覚悟を決めて、梓は黒塗りの高級車の助手席に座った。
滑らかな皮のシート。ゆったりとした空間。
いつも兄に乗せてもらう国産セダンとは随分な差があった。


『航に、今住んでいる住所を知られたくない…。』


そんな梓の気持ちがわかったのだろうか。

「住所は、調べればすぐ解る事だ。」

抑揚のない声で航が呟いた。後ろにいる美晴を気にしたのだろう。
そうだった。ビル清掃の為に、梓の住所もグッドクリーンに登録している。
航が調べる気になれば、簡単にわかる事だった。

「今は中野の…。」

渋々住所を告げると、航はさっさとナビに登録していた。
こんな事は一度限りだと思いたいのに、彼の表情はそうは言っていなかった。



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