クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
『ラッシュアワーだから、ここからマンションまでどれくらいかかるだろう。』
ボンヤリと、梓はそんな事を考えていた。
振動もほとんどなく走る社内では、美晴一人がはしゃいでいた。
梓は時々相槌を打っていたが、航は無言でニコリともしない。
始めは物珍しそうに車内を見て歓声を上げていたいた美晴も、
いつの間にか静かになったと思ったら、コクリコクリと船を漕いでいた。
「梓…。」
「今はダメ。いつ目覚めるかわからないし。」
再び二人の間に沈黙が流れた。
すぐ側に座っているのに、二人は半端なく遠い距離にいるようだ。
車内は暗い雰囲気のまま、梓のマンションに着いてしまった。
「送って下さってありがとう…。」
ひと言航に礼を言ってから、梓は美晴に声を掛けた。
「美晴、美晴ちゃん、起きて。おうちに着いたよ。」
「う…ん。」
「お母さん、もう抱っこ出来ないから自分で歩いてよ。」
助手席から降りた梓は、後部座席のドアを開けて美晴を起こそうとした。
すると航も降りて来て、梓に横へ動く様に促すと自分が美晴を抱き上げた。