クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
「何て言ったの?」
いきなり何を言い出したんだろう。梓は混乱した。
「結婚しよう。あの頃の俺とは違うんだ。美晴の為になら何でも出来る。」
「それだけで…美晴の為だから、結婚するっていうの?」
「キチンと夫婦になって、あの子の父親になりたいんだ。」
「あなた、自分が何を言ってるかわかってる?」
「ああ。」
「別れた妻に、結婚してくれって言ってるのよ。」
「ああ。」
航と話すにつれて、梓の心に黒く渦巻くのは何だろう。
怒りか、恐怖か、憐れみか…
「お断りだわ。」
ハッキリと梓は断りを口にした。航を振り解いて部屋から出て行こうとした。
「梓、待ってくれ。」
まだ、航は諦めずに梓の腕を掴んでくる。
「もう、この手の中から何も消えて欲しくないんだ。」
苦し気に、梓の両腕を掴んで離さない。二人はまじまじとお互いの顔を見つめ合った。
10年の月日が、目尻や額に表れている。
それでも、航は男性だから年を重ねた貫録とも言えるだろう。
梓は…。余りに近い距離で彼に顔を見られるのは辛かった。
やつれて、老けていると思われたら…余りにも惨めだ。
「無理よ。あなたともう一度結婚なんて…出来ないわ。」