クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!

『無理よ…。』

梓が部屋を出て行ってからも、彼女の声がいつまでも耳の奥で響いていた。

「くそっ!」

思わず、机の上の書類を力任せに薙ぎ払った。
ヒラヒラと大量の紙が舞いながらカーペットの上に散っていく。

梓の言葉に、航は当時の自分を思い出した。

離婚届にサインする時、思いっきり見栄を張って、やせ我慢していた事を。
まだ彼女を愛しているくせに、彼女に養われている自分がイヤだった。
離婚を切り出した事で、プライドだけに縋っていたかつての自分を。

『こう言ったの。子供なんか出来てたら、最悪だったよな俺たちって。』

航は信じられなかった。そんな事を自分が言ったとは…。

『それからこうも言ったわ。子供を作らなくて良かったって。
 子供がいないから、キレイに別れられるって言ったのよ。忘れちゃった?』


忘れるも何も、あの日は梓の手前、自分は平静だと見せかけるのに必死で
何を言ったか覚えていなかったのだ。
梓に申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。

でも、彼女は妊娠していたのなら、連絡をくれても良かったじゃないか。


「梓…美晴…。」

妻と娘を取り戻すにはどうすればいいのか、彼には皆目見当もつかなかった。





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