クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!


ホテルのロビーを歩いていたら、おしゃれなパティスリーが目に留まった。
ショーケースの中に宝石のようなケーキが並んでいる。

併設のカフェでは、恋人同士や家族連れが笑顔でケーキを楽しんでいた。

『もう何年もケーキなんて買ってなかったな。』

梓と付き合っていた大学生の頃は、彼女の為に買ったものだ。
バイト代で、梓の好きなミルクレープを買った時の記憶が蘇ってきた。
薄いクレープとクリームが何層にもなっており
上に飾られていたイチゴの一粒でさえ、梓は喜んでいた。

『相手の、笑顔…。』

自然と航の足はショーケースへと向かった。

『美晴はもう、夕食はすんだ時間かな。』

フルーツやチョコレートをふんだんに使ったパティスリーのケーキを
美晴の笑顔を想像しながらいくつか選んで買った。

選んでいるうちに、何だかこれまでの迷いが吹っ切れた気がした。

山のようなプレゼントを届けた日、美晴は確かに喜んでくれた。
だが、父親なら自分で選ぶべきだった。
梓に結婚を断られた事など関係ない、美晴の為に選ぶのだ。

『美晴の喜ぶ顔、笑顔が見たい…』

その気持ちを思い出した航は、童心に帰ったように胸を弾ませていた。
ケーキの箱が入った袋を大切に持ち、梓のマンションへ急いだ。



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