クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
 
その時、デスクの内線電話が小さな音を立てた。

「チッ…。」

ようやく、航が起き上がり、梓から離れた。

彼が電話を取ろうと立ち上がったので、梓も慌てて起き上がった。

ブルブル震える膝を何とか立て直し、乱れた制服を引っ張って伸ばす。
清掃道具を持って、電話中の美馬には目もくれず社長室から飛び出した。

『掃除が終わってて良かった~。』

廊下の外に置いていたカートを掴むと、梓は階下の清掃員の控室へ急いで降りた。
エレベーターの中でも、まだ動悸が収まらない。

(わたる)が、ここの社長代理だなんて、聞いてない!』

沸々と怒りが湧いてきた。
社長室のドアを開けた瞬間、航に気がついて慌てて前髪を下ろした。

なのに、あんな事(・・・・)をしてしまうなんて…。


梓は水色の制服姿だが、清掃会社の社員でもパートでもなかった。
家族が清掃会社を経営しているというだけで、彼女の本職は違う。

たまたま、いつも社長室を担当している女性が突然の体調不良だと言うので
頼まれて早朝だけの約束で、ここに来たのだ。

『兄貴、もし知ってたら許さないからね!』

控室でさっさと着替え、梓はビルから出て行った。
実家に帰って仕事を頼んできた兄夫婦を問い詰めなければと思う程、怒っていた。



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