クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
梓が少し遅れてキッチンに行くと、二人がテーブルの上にお皿を並べて
ケーキの箱を除きながら何を食べるか相談していた。
「チョコも食べたいし…イチゴも食べたいし…迷うよお…。」
「なら、美晴ちゃん。おじさんと半分こしようか。」
「えっ?いいの?」
「おじさんも両方の味見が出来るから、ラッキーだよ。」
「それなら、お母さんがレアチーズにしたら三人で三つの味が食べられる!」
「ハイハイ、私がレアチーズにするわ。」
「やった~!今日はお誕生日かクリスマスみたい!」
いそいそと、美晴はそれぞれのケーキを三枚のお皿にのせる。
「飲み物、コーヒーでいい?紅茶もあるけど?」
「ああ、いいね。紅茶をいただこう。」
キッチンの側に置いているのは、四人掛けの小さいダイニングテーブルだ。
三人で囲むと、いっそう小さく感じる。
三種類をどういう順番で口に入れるか迷っていた美晴は、
レアチーズケーキをまずひと口食べた。
「う~ん、お口の中でレモンの香り。」
「グルメ番組のレポーターみたいだな、美晴ちゃんは。」
「おじさん、わかる?美晴ね、大きくなったらテレビのお仕事がしたいの。」
「へえ~。」
「知らない所に行って、色んな人にお話し聞くお仕事したいのよ。」
「そうか…。」
「あちこちに行ってたら、美晴のお父さんに会えるかもしれないし。」
航は自分が父親だと言いそうになったが、梓の厳しい視線に無難な答えを選んだ。
「そうかも…しれないね。」
「ウフフッ。」
ケーキを頬張る美晴を見ていると、本当に心が和む。
それと同時に、美晴に自分の存在を言えない辛さと
子供を産んだ事を隠していた梓への怒りも胸の中で渦巻く。
複雑な感情が、航を苦しめていた。