クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
「そんなに真剣に考えて、これまで育ててくれたのか…。」
航は梓が黙って子供を産んだこと、育てていた事に対する怒りが
少し和らいできたことを感じた。梓には彼女なりの理由があった筈だ。
元はと言えば、自分が不用意に言ってしまった言葉が全ての発端となっている。
悔やんでも、悔やみきれない事実だ。
向かい合って座っていた梓の手を自然と握っていた。
「美晴が赤ん坊の時から、そんな風に思って育ててきたのか…?」
「まさか!」
梓は慌てた。うっかり愚痴を溢してしまった程度だと思ったのに、
航が余りに真剣に受け止めたので、たじろいだ。
「赤ちゃんの時は必死だったもの。お乳飲ませてオムツ変えて…
毎日毎日、その繰り返し。真剣に子育てについて考える余裕なんて無いわ。
おまけにあの子夜泣きしてたし…。」
しどろもどろに喋る梓の手を、航は手をキュッと握った。
「そうか…。」
その時になって、梓は航に手を握られていた事に気がついた。
それくらい違和感なく彼の体温に包まれていたのだ。
びっくりして手を引き抜こうとするが、彼の力の方が強い。
「…すまなかった。」
「何が?」
「何もかもだ…。」
「やめて下さい!謝らないで!」
梓からは、小さな悲鳴のような声が漏れた。
今さら10年もの歳月を詫びられても、時間はもとに戻らない。
お互いに、『ごめんなさい』と誤ればそれで終わりという問題では無いはずだ。
「もう一度、振り出しに戻りたい。美晴と触れ合いたい。」
父の存在を知らない我が子の愛し方、接し方。
手探り状態だが、航はこのまま『美馬のおじさん』ではいたくなかった。