クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
娘の寝顔を見ながら、スーツの上着を脱ぎ、航は力なく膝をついた。
ここ数日の疲れがここまで溜まっていたのかと実感した。
やっと吸収合併した『佐柄物産』の後処理が終わったのだが、
急にCEOから、アメリカに帰って次の仕事に関わるよう指示が届いた。
明朝のグローバルミーティングで返事をしなければならない。
梓と娘からは離れたくない。時間をかけてやっとここまで馴染んだのだ。
だが、これまでの努力が実って仕事でも認められつつある。
子供との関係とアメリカでの仕事の両方は選べない…。どうするべきなのか。
航は美晴の顔をじっと見つめた。ついこの前まで知らなかった自分の娘。
我が子の健やかな寝顔を見ていると、答えが自然に出てくる気がした。
『家族か…。』
航の意識は、そこまでだった。
疲労困憊した身体は正直で、娘の規則正しい寝息を聞いているうち、
自分も睡魔に襲われたのだ。
しばらくして梓が覗いたら、卓の布団に航も寝転んでいた。
起こそうかと思ったが、ジャケットも脱いでいたし余りに深い眠りだ。
「余程、疲れてたのね…。」
明日の早朝に声をかければ大丈夫だろうと判断し、
軽い羽根布団をかけてやって、そのまま寝かせておく事にした。
「おやすみなさい。」
10年ぶりに、小さな声で元夫に就寝の言葉をかけた。