クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!

 その話を、子供部屋のドアの内側に張り付くようにして
美晴と卓が聞き耳を立てていた事に、梓も健吾も気付いていなかった。

「美晴ちゃん、何の話?」
「しっ!静にして卓くん、よく聞こえないから。」

「美晴ちゃんのパパの事?」

「うん…。」

健吾と梓の言いあう声がかすかに聞こえてくる。
確かに、美晴の父親は美馬航(・・・)と言っていた。

黙ってしまった美晴の様子を静に卓は見守っていた。

「卓くん、電車に乗るカード持ってる?カードにお金の入ってるヤツ。」
「あるよ、塾に通うからママからもらったよ。」

「貸してもらえないかな?」
「どうして?」

「美馬のおじさんがパパなのか、おじさんに聞きに行ってくる。」

「どこに行くの?」
「えっとね、おじさんが新宿に会社とかマンションがあるって言ってた。」

「それだけじゃ、会えないよ。」
「ほら、これ…。」

美晴は子供用のスマートフォンを出した。

「お母さんは知らないけど、おじさんが電話番号を登録してくれてるの。」

「そこに電話すれば会えるんだね。」
「うん、おじさんに会って確かめなくちゃ!」

「おじさんに直接『お父さんですか?』って聞くの?」

「そうよ。わからない事や知りたい事があったらすぐに調べたり
 聞いたりしなくちゃダメだってお母さん言ってたもん。」

思いがけない話だろうに、美晴は元気いっぱいだ。
ひとつ年上の卓の方が少しは世間を知っているから、美晴が心配になってきた。

「…一人で新宿行くの心配だなあ…ボクもついて行くよ。」

健吾がマンションを出て行くまで、子供二人は布団を被って一生懸命考えた。
どうやって親たちの目を盗んで、新宿へ行くか…。

コソコソと小声で話し合う。
二人の考えが纏まった頃、梓が子供部屋のドアをノックした。


「おはよう、起きてる~。」

「は~い!」

二人は顔を見合わせて、ニンマリとしていた。


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