クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!
父娘の様子を、ぼんやりと梓は眺めていた。
娘を奪われたような、それでいて望みが叶ったような複雑な気持ちだった。
そこに自分が入ってはいけないような気がして、ただ見守っていた。
美晴を抱いたまま、航が梓の方を向いた。
「梓…。ここに来て。」
言われるがまま、航の側に行く。
すると、彼の腕が伸びて来て梓もすっぽりとその中に収まった。
「あっ…。」
ソファーの中央に航が座り、その膝に乗り上げる様に美晴が抱っこされている。
彼の横に座った梓もそのまま彼に密着するよう抱き寄せられたのだ。
「三人、一緒だね。」
美晴の声は弾んでいる。
「うん…。」
航は満足気だ。
「初めてだね、三人くっつくの。」
にっこり笑う美晴の笑顔が眩しかった。
力強い航の腕、厚みのある胸板。梓の心の中で忘れていた記憶が蘇って来る。
『この人に抱かれて、美晴を身籠ったんだ…』
忘れかけていた営みだ。梓の身体が熱を帯びてくる。
『好きなら好きって言え。』
兄の言葉が心の奥に残っていた。
そうだ、ずっとこの人が好きだったんだ。なのに私は…。
その時、来客を告げるチャイムが鳴った。
「千客万来だな、今日は。」
航が立ち上がったので、梓はホッとした。この熱を航に悟られたくなかった。
生活感の無いこの部屋に、来客があるのは珍しいのだろう。
航がインターフォンを覗くと、屋代佳苗の姿があった。