【1/2 英語版③巻オーディオブック発売・電子先行③巻発売中】竜の番のキノコ姫 ~運命だと婚約破棄されたら、キノコの変態がやってきました~ 第2章
51 魂の伴侶、運命の番
 話を終えてクロードが連れてきてくれたのは、王族の専用の庭だ。
 初めてクロードと好意を確認できた場所。
 四阿(あずまや)のベンチに座ると、昨日のことのように思い出せた。

「体調は、大丈夫?」
 今日だけでも何回目かわからない問いにうなずくと、クロードはほっと息をついた。

「あらためて、王子同士の確執に巻き込む形になって、ごめん。兄上達とは最低限の関わりだったし、まさかあんなことを考えているとは思わなかった」

 もともと、大人の距離だと言っていた。
 仲良しこよしとはいかずとも、それなりに良好な関係だったのだろう。
 それが番を殺し、自分を衰弱させて殺すつもりだったなんて、ショックを受けて当然だった。

「グザヴィエ兄上とジェローム兄上は意見が対立することも多かったが……それもわざとそう演技していたらしい。昔から竜紋の存在を知らない貴族が王位継承順に疑問を持って、下位の王子を唆すことがあった。その対策として、側妃の子で継承順の低いジェローム兄上が険悪なふりをして、様子を探っていたらしい」

 確かに、竜紋の存在を知らなければ、この国の王位継承順は謎な部分が多い。
 そこに付け込もうとする人が出てきたとしても、おかしくないのかもしれない。

「宝物庫の魔道具が盗まれて、それを追っているうちにアルマン兄上を監視するようになったらしい。おかげでアニエスが攫われた時も、居所をつきとめるのに役立ったんだ」


「そういえば、モーリスさんはどうなるんですか? 庭の入り口で待ってもらったのは、私のせいです。私が庭を出る時に使用人の案内で別な場所に連れていかれたんです。モーリスさんは悪くありません」
 アニエスを訴えを聞くと、クロードは首を振った。

「モーリスは俺の命でアニエスの送迎と護衛を任された。たとえアニエスの命であっても、その身を守ることができなかったのは、あれの落ち度だ」
「そんな」

 アニエスは非公式とはいえ、王位継承権第二位のクロードの番だ。
 その身を守れなかったとなれば、どんな罰が下されるのだろう。

「だが、それは俺も同じだ。モーリスひとりで問題ないと判断し、公爵邸に一緒に行かなかったのは俺。だから、俺も同罪。……モーリスへの罰は、三ヶ月の無休」
「よ、良かった……」

 いたずらっぽく微笑むクロードの言葉に、アニエスは大きなため息をついた。
 冷静に考えれば三ヶ月も無休で騎士業務だなんて過酷なのだろうが、ともかく厳罰を与えられなくて良かった。

「それにしても、アルマン兄上があそこまで馬鹿な真似をするとは思わなかったよ。フィリップも大概馬鹿だが、あちらは竜紋の意味を知らないからね」
 そういって小さく息をつくと、アニエスの手にクロードの手が重なった。


「怪我はないと言っていたけれど、本当に大丈夫? あいつらに何かされなかった?」
「何かって」
 その話はもう終わったと思っていたのだが、どうやらクロードにとっては違うらしい。

「手は、触られた?」
「はい。というか、つかまれました」
 アニエスが認めると、その手を優しく撫でられる。

「髪は?」
「触られた、らしいです」
 アニエスに憶えはないが、フィリップが言っていたので触ったのだろう。
 すると今度は頭を撫で、髪を撫でられた。

「それから?」
「ええと、抱き寄せられて、頬に」
 触れられたという前に、座ったままクロードに抱き寄せられ、頬を撫でられた。

「あとは? ……ここは、無事?」
 そう言って、クロードの長い指がアニエスの唇をゆっくりとなぞる。
「ぶ、無事です!」
 慌てて顔を背けると、クロードが苦笑するのがわかった。


「他は?」
「あとは、キノコが防いでくれました」
「そう。キノコが助けてくれたんだね」

 その瞬間、クロードの腕に破裂音と共にキノコが生えた。
 ハマグリ型のこぶのように生えているのは、ヒトクチターケだ。
 全体はクリーム色で、上部はキャラメルソースがかかったような光沢がある。
 何だか今日は光沢がひときわ艶やかに見えるが、気のせいだろうか。

「ありがとう。君達は恩人……恩茸だ。アニエスを守ってくれて、本当にありがとう」
 クロードはアニエスから手を放してキノコをむしると、礼を言いながら光沢部分を撫でた。
 はたから見れば滑稽を通り越してただの変態だが、本当に変態なのでどうしようもない。

「今回は守ってあげられなくて、ごめん」
 キノコをポケットにしまうと、クロードが頭を下げた。
「もうそれは聞きました。クロード様のせいではありません。それに、ちゃんと助けに来てくれましたし」

「俺は竜の血を引いていて、君は俺の番だ。……でも、それは俺にとっての絶対であって、アニエスにとってはそうじゃない。急いて君を怯えさせたくなかったし、それで逃げられるのが怖かったけれど」

 クロードはそう言って立ち上がると、今度はアニエスの前にひざまずいた。
 差し出された手には、指輪が乗っている。

「――アニエス・ルフォール。俺の魂の伴侶、運命の番。どうか、俺と結婚してほしい」



============



明日で「キノコ姫」第二章も完結です!
本編完結後は、明日中に「今日のキノコ」図鑑も投稿します!


【今日のキノコ】

ヒトクチタケ「キノコの騎士と釘」)
樹木の側面に沿ったハマグリ型で、下部はクリーム色、上部は褐色で光沢があるキノコ。
木にめり込んだ栗饅頭という感じ。
美味しそうな名前に、美味しそうな見た目だが、美味しくないらしい。
クロードに褒められるチャンスだと、どさくさに紛れて出て来た、ちゃっかりキノコ。
アニエスを守ったキノコ達の代表として光沢部分をクロードに撫でられて幸せ。
< 51 / 54 >

この作品をシェア

pagetop