図書館司書に溺愛を捧ぐ
「ごめん、なんか泣かせちゃった。」

私は首を振った。お兄ちゃんのせいじゃない。お兄ちゃんが私の辛かったことを理解して、頑張ったって褒めてくれたから涙が勝手に出てきちゃったの。
お兄ちゃんは私の手にタオルを握らせ、頭を撫でてくれた。
あの時もこうして頭を撫でてもらったんだった。
私が泣き止むまでしばらく黙ったまま泣かせてくれた。その間も優しい手は私の頭を撫で続けてくれた。

「ごめんね、お兄ちゃん。いきなり泣いちゃって」

「こっちこそごめんな」

お兄ちゃんは頭をかきながら困った顔をしていた。
 
「お兄ちゃんのこと思い出したら涙が出てきちゃって。お兄ちゃんは私が辛かった時助けてくれたから」

「何もしてないよ」

「ううん、何もしてなくないの。私のそばにいてくれたもん。今みたいに泣かせてくれた。話しかけてもろくに返事さえしない私にいつも声をかけてくれたもん」

私はあの時どれだけ嬉しかったのか伝えたいのにこれしか言えない。もっともっとお兄ちゃんに感謝を伝えたいのに私の語彙力の無さにがっかりする。

「紗夜ちゃんはあれから元気だった?心配してたんだ」

あのあと親の勧めで受験し、そこから友人関係が新しくできて私なりに楽しい学生生活が遅れたことを話した。でも私の根幹にあるこの場所に戻ってきたくて頑張ったことも話すとまたお兄ちゃんに頭を撫でられた。

「頑張ったな、紗夜ちゃん」

私の目はまた潤んできてしまう。

「お兄ちゃんは?お兄ちゃんはどうしてたの?中学の後すぐ図書館に全くこなくなったよね」

「俺はカナダに留学してた。高校から大学までずっとカナダで過ごしてたんだ」

「カナダ?」

「そう。カナダ。俺もあの頃色々あってさ。塾サボってここにきてたんだ。」

そうだったの?
子供だった私には気がつかなかった。

「何もかも嫌になってここにきてたんだけど、その度に見かける子がいてさ。俺が行くと必ずいるんだよ。楽しそうにいつも本読んでてさ。で、気になってたんだけどある日、本棚の影で泣いてる君を見つけてさ。驚いたよ。こんなに小さな子が声を殺して泣いてる姿に俺はどうしたら良いのかわからなかった」

「でも、あの時お兄ちゃんに慰めてもらわなかったら浮かばれなかった。自分の気持ちを持て余したままだったよ。お兄ちゃんがそばにいてくれて泣かせてくれたから私は救われたの」

「そう言ってくれて嬉しいけど、でも何もしてないよ」

「何もしなくてよかったの。あの時の頭を撫でてくれた手は今でも覚えてるよ」

「そっか」

「お兄ちゃん、本当にあの頃はありがとうございました」

私が勢いよく頭を下げた。

するとお兄ちゃんは照れて頭をかきながら私の方をみた。

「なあ、紗夜ちゃん。ご飯食べに行かない?」

私は誘われるがままにお店に付いて行った。

 
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