図書館司書に溺愛を捧ぐ
「あ、あの…。えっと…。」
私は何を言ったらいいか分からない。
でもおにいちゃんは私が話し出すまで待ってくれている。
「ありがとう。」
やっと言えた一言だった。
お兄ちゃんは笑いながら「どういたしまして」
とかえしてくれた。

そのまま繰り返し打ち寄せる波を2人でぼーっと眺めていた。何も話さなくても苦にならなかった。
夕焼け空になり、陽がだいぶ落ちてきた。
このまま落ちるのを見ていたいところだけど、5時の鐘が鳴っているのが聞こえてきた。

「さぁ、帰ろうか」

「うん」

2人で立ち上がり館内へ戻った。
私は椅子に置いてあった鞄を持ち、お兄ちゃんに手を振って家へ帰った。
さっきまでの胸の苦しさがとれ少し楽になった。

私は友達が前にも増して怖くなってしまった。
でも図書館だけが私の心の支えになってくれていた。
時々あのお兄ちゃんにも会うことがあった。
初めはなにも話せずお兄ちゃんの相槌を打つだけだった。お兄ちゃんも私からの答えを求めないような独り言のような話を私に聞かせていた。
段々と私も話すことができるようになった頃にはお兄ちゃんが中学を卒業してしばらく経った頃だった。
忙しそうだったけど小学生の私には分からなくて、しばらくもうここには来れないんだ、と言われた時には私はまた泣いていた。
泣き出した私を見てビックリしていたお兄ちゃんはまたデッキに連れ出してくれ、頭を撫でてくれた。
「またいつか」
そう言って私にサイダーの飴をくれた。
今思えば図書館よりも私の心の支えだったのかもしれない。
翌日から何度図書館に通ってもお兄ちゃんはもう来なかった。
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