図書館司書に溺愛を捧ぐ
それから10分くらい2人はエントランスで立ち話をしてから分かれて、基紀さんはカフェに来た。

私は2人を見ていたと知られたくなくてスマホで本を読んでいるふりをした。

「お待たせ。ごめんな、仕事が長引いて」

「大丈夫です。スマホで本を読んでいたので」
 
「ビルの地下に車があるんだ。取りに行きながらレストランに行こうか」

「はい」

私たちはカフェを出てビルの中に入った。
基紀さんの隣に並ぶ私をみて何人かが凝視しているのがわかった。
値踏みされているようで居心地が悪い。

基紀さんは何も感じないのかいつもと同じように私に話しかけてきてくれるが、私はうまく返せない。

だんだんと俯いてしまった。

エレベーターに乗り、地下へ降りると高級な車がずらりと並んでいた。

そう言われてみると今さらながら基紀さんの車はあのエンブレムが付いている。
少しだけしか乗ったことはないがシートの座り心地がとてもよかったように思う。
これだけの見た目に設計士、しかもこんなオフィスで働けるなんてハイスペックだ。
図書館で会うだけの私は気がつかなかった。
所詮幼馴染から抜け出せていなかった。

車に乗っても居心地が悪く、話に集中できない。

「紗夜ちゃん、調子悪い?」

「ううん」

「そう?」

「うん」

それ以上に会話が弾まない。
これなら調子が悪いと言って帰ればよかったかもしれない。
基紀さんが好きだけど、それだけでは乗り越えられない自分のハードルがあったことに気がついてしまった。
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