図書館司書に溺愛を捧ぐ
基紀さんのマンションは何も変わっていなかった。

「あ、お母さんに連絡しなきゃ」

「そうだな。向こうの部屋でかけてくるか?」

「うん」

私はこの歳になってもまだお母さんに連絡だなんていう自分を少し恥ずかしくなった。でも私は生まれてから29年間、無断外泊なんてしたことないもの。お母さんを裏切るようでできなかった。でもそれを馬鹿にせず基紀さんは受け入れてくれホッとした。

『お母さん、遅くなってごめんね。今日このまま泊まるから帰らないね』

『わかったわ』

私は声がうわずってしまうが深く聞かないでいてくれるお母さん。
電話を切ると肩から力が抜けた。

リビングへ戻るとソファの前のテーブルにはグラスが並べられ、ケーキも箱から出されていた。

基紀さんに促されソファに座ると隣に座ってきてシャンパンを開け注いでくれた。

2人でグラスを重ね口にすると爽やかな酸味の中に少しだけ甘めの味がして口当たりがとても良かった。

「美味しい」

「良かった。この前フランスに行った時に何本か購入したんだ」

「基紀さんもお仕事頑張っているんですね。私は自分のことばかりで何も知らない。ごめんなさい」

「そんなことないさ。俺の仕事はみているだろ。今日の店もそうだよ。俺が設計した」

「え?そうなの?すごく素敵だった」

「このマンションも、前に連れて行った和食もピザもみんなそう。紗夜ちゃんに俺の仕事を見て欲しくてさ」

「基紀さん凄すぎます。やっぱりあなたの隣にいるのを躊躇いそうです」

「本当か?言わなきゃ良かったのか。失敗した。もう言わないことにするよ」

「でも知らないのも寂しい。ただ、凄すぎる人だって改めてわかって尻込みしてます」

「中学生の頃を思い出してよ。あの頃と何も変わってないよ。ただ、君のことが好きなだけの男だよ」

そう言うと私にキスをしてきた。
しかしすぐに離れた。

「あ、ごめん。何もしないって約束して連れてきたのに。本当にごめん。もうしないから」

私はキスされるのもその後も嫌じゃないと気がついた。
キスはされたら嬉しかった。

だから私は彼の服にしがみつき、下手くそながらも彼の唇を奪った。

彼は目を見開き驚いていたが私の気持ちを理解したのか、改めて彼から唇を塞がれた。
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