図書館司書に溺愛を捧ぐ
「あの……」
彼から話しかけられ私は驚いた。

「はい。」

「あの、君は紗夜ちゃん?」

彼は伺うような顔で私を見つめてきた。
何故彼が私の下の名前を知ってるのか分からなかった。

「え…と。花沢紗夜です。失礼ですがお会いしたことありましたか?」
私は勇気を振り絞って聞いた。

「やっぱり!紗夜ちゃんだ。俺だよ。基紀。水谷基紀。忘れちゃった?」

私はその名前を聞いてもピンと来ない。

「君が小学生の頃ここでよく会ってた中学生だよ。」

「お兄ちゃん?」

私は驚き、彼の顔をよく見る。そう言われてみると面影があるかもしれない。ただ、こんなに背が高くなかった。昔はもっと小さくて可愛い雰囲気だったと朧げに思い出す。でも目元にあるほくろの位置が同じ。それに声が同じ。

「やっぱり。ここに来始めてからなんとなく気になってたんだ。名札に名字しかないから確信が持てなくて。でも雰囲気がそうだし、何よりここで働いてることに俺の直感が紗夜ちゃんだといっててさ。」

あまりのことに驚きを隠せない私を見て笑いかけてくれるお兄ちゃん。

「紗夜ちゃん大きくなったね。」

「うん、あの時は4年生だったから10年以上前だよ。お兄ちゃんよくわかったね。」

「なんとなーくな。面影があるよ。」

そうなのかな。でもあの時は前髪長くて暗い感じだったはず。今は一つに結いてスッキリさせている。面影なんて無いように思うけど。

「ねぇ、このまま仕事中に話してたらまずいから後でお茶でもしない?何時まで?」

「今日は5時までだよ」

「あと少しだから本見ながら待ってるよ。建築のところにいるから声かけて」

お兄ちゃんはそう話すとここから離れていった。
見上げるほどに背が高くなって、がっちりとした体つきに変わっていた。でも笑った顔はあの頃のままで少し目尻が下がっているのを懐かしく思った。
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