図書館司書に溺愛を捧ぐ
1時間ほど働いたところで仕事は終わり、支度をして建築関係のコーナーを覗きに行くとテーブルに座り、海外の建築物が載った本を開いていた。

「お待たせしました。」

私が声をかけると集中していたのか、ちょっと驚いたようにビクッとして振り返った。

「紗夜ちゃん、お疲れさま」

お兄ちゃんは本を閉じ本棚へ戻すと私を促し外へ出た。

「図書館の中だと話すのはマズイからさ。ごめんね、つい懐かしくて誘っちゃって」

「私の方こそ声をかけてもらわなかったらわからなかったです。あんなにお世話になったお兄ちゃんの顔がわからないままだなんて寂しいから、声をかけてくれてすごく嬉しかったです」

お兄ちゃんに笑いかけながら話すとホッとした顔をしてくれた。

「悩んだんだよ、ストーカーか何かだと思われやしないかとさ。でも絶対紗夜ちゃんだと思ったから今日こそは声をかけてみようって思ってたんだ。別人だったら2度とここには来られないと思ったけどさ」

たしかに、いきなり名前で呼ばれたら不審者かも。私も最初なんで名前を知ってるのか怖かったし。
そんなことを考えていると分かったのかお兄ちゃんは苦笑いを浮かべている。

「でも声をかけたかったんだ。君がもしあの時の紗夜ちゃんなら尚のこと、声をかけたかった」

「え?」

「紗夜ちゃん、頑張ったんだなって言いたかった」

私はその言葉を聞いて目尻から涙が溢れた。
慌てて手で拭うが、自分の意と反して溢れてしまう。

「紗夜ちゃん。」

心配そうに覗き込むお兄ちゃんを安心させたくても、お兄ちゃんの顔を見たら余計にホッとして涙が止まらなくなった。
お兄ちゃんに肩を抱かれ、人目のつかないベンチに座らされタオルを渡された。
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