目覚めたら初恋の人の妻だった。

私が初恋の人の妻?

検査から戻って来ると病室から言い争うような声に吃驚する。
声の主は母とカズ君。
2人が言い合うのを今まで見た事も聞いた事も無い・・・
近づくと話しの内容が鮮明に聞こえてくる。

「でもね、大学生の柚菜で居るのなら、幾ら一那君とは言え、男性と一緒に
暮らすって無理だと思わない?それに一那君、仕事で日中居ないでしょ?
その間、柚菜は1人であのマンションで過ごすの?
もし、何かあったら?異変に気がついてあげるのが遅くなって
取り返しのつかない事になったら・・・」

「何時でも来てくれて良いから・・・」

「お義母さん、お義母さんの心配も解かります。今もこれからも
柚菜は佐倉家の娘である事には変わりませんが、もう、俺の妻なんです。
記憶を失くしても柚菜は加瀬柚菜なんです。」

カズ君もお母さんも何の話をしているの?
私が加瀬???あり得ない・・・
でも、さっき検査に行って確認で名前を口にすると確かに
「・・・・????」っという顔をされたが、カルテを見て微妙な顔をして
それ以上何も追及されなかった。
もしかして私の名前が違っていたから戸惑われていた?

幾ら記憶を失くしていても、2年以上の記憶が無いと言われてはいるけれど
だからって私がカズ君と結婚?なんて絶対にない。
付き合った事も無いし、ましてや姉の恋人だ。
あれ、お姉ちゃんは?
一度も病院に来ていない・・・もしかして私がお姉ちゃんからカズ君を
奪ったの?
でも、どうやって?
何か弱味を握って脅かした?
ハッ・・もしかして私は最低な手段を取ってしまった?

そこからは母とカズ君が話している内容をあまり覚えていない。

ただ、解るのは今のこの気持ちのままではダメなような気がした。
何も覚えていない・・
完全に覚えていない記憶は2年くらい?本当に?だってそれ以外にも
靄が掛かったように虚ろな部分が沢山ある。
冷静に考えても2年以上の前の記憶も曖昧だ。
朧気なのは昨日だと思っている記憶が実は2年以上前だからで
鮮明に覚えていないのか、それとも記憶が無いのか・・・
そもそも、記憶喪失ってこの日ってパツンと分けられるのだろうか?

高校生の時の記憶はそれなりに覚えている。
でも、大学に入ってからが曖昧だ。
”先生” 病院でその声を聞くたびに何故か胸の奥が痛くなって
申し訳ない気持ちになる。
意識を手放す前に感じた”先生”に対する感情に甘さと苦さを覚えたのは
夢か現か。
それが何なのか・・・
大学2年生で合格率4%以下の司法試験予備試験に合格して
3年生で司法試験に合格した。
日本最難関のT大でもその時はかなり、注目を浴びた。
そう言う部分はハッキリ覚えている。
でも、じゃあ、普段何をしていたかとか思い出せない。
何か楽しい事をしていたような気がするけれど・・それが何なのかは思い
出せないでいた。
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