目覚めたら初恋の人の妻だった。

口約束した休日。
見るからにボロボロの私に何かを言いたそうなカズ君は玄関で私の
頭に大きな手を当てクシュクシュして

「すっげ~ブサイク! せめて顔を洗って来い! 約束しただろう!」
「え!」
「お前、忘れたとか・・・・」
「忘れていないけど・・・リップサービスかと・・・」
「はぁ~ 俺、今まで一度も実行できない約束なんてした事ないけど?」
「そうなんだ・・・」
「そうなんだって お・ま・え・ 」
「だって、私 カズ兄と 約束した事なんて無いもん!」

頬を膨らませながら不満げに口にすると、カズ君は ハッとした顔をし
唇が一瞬歪んだ。

「とにかく出掛けるから準備して来い!10分だけ待つから」
「10分じゃ無理だよ・・・」
「俺を信じていなかった柚菜が悪い!」

確かに勝手に約束をリップサービスを思い込んでしまった
私が悪いが…お姉ちゃんはこの状況を良く思わないよね???
本当に良いのだろうか・・・
一応、姉に話をして3人で出掛けるのが筋だろう等々色々考え姉の部屋を
ノックするが 返事がない

「お姉ちゃん、開けるよ・・・」

そこに姉の姿は無く、ベッドも寝た形跡が無かった。
(外泊????)
私が大学生になった頃から姉と家で会わなくなったのは
私が家に寄り付かないだけじゃなかった??
そう考えると私は姉の事を何も知らない。気にしない様に
過ごしてきたから当たり前なんだけれど、矛盾しているが
姉妹として少し寂しい気持ちになってしまったが、
『お姉ちゃんを誘うつもりだった、お姉ちゃんに許可を取る
つもりだったのに居なかったお姉ちゃんが悪いんだ、、、』
都合よく自分の行動を正当化することにしてしまった。


その次も、その次も必ず次回の約束をして別れる。
気がつけば当たり前の様に休日を一緒に出掛けて過ごしている私達。

”おねえちゃんは?”と何度も聞こうと思ったけれど、
聞いたら最後、この夢は無残に散ってしまいそうで聞けなかった。
そうこうしているうちに、それを今更聞く事が出来なくなってしまった。

疎遠だった幼馴染が友達になって、気がつけばキスをする仲に。
最初はオデコに ご褒美のキス。それでも吃驚して真っ赤になった
顔を見られたくなくて、
初めに聞いていれば引き返せた気持ちが一年以上も一緒に居る事に
慣れてしまった私には、今更この状態をリセット出来るほどの勇気も無く、
聞いて笑い飛ばせるほどの強さも持ち合わせていなかった。
ただ、欲しくて欲しくて仕方が無かったカズ君の隣に居る権利を
失くしたくない。その気持ちが勝る狡さを見ないフリをする。
だから私は飲み込み、事実から目から逸らし、都合よく解釈した。
過去は過去。この先の未来に隣に居るのは私。
最終的に選ばれたのは私なんだと・・・

どうしてあの時にそんな風に奢った考えが自分の中にあったのか?
中学生の時に選ばれなかった私がその後、選ばれる事なんて無い事をどうして
思い至らなかったのか・・・
一那が私にチョッカイを出したのはきっと姉から痴話喧嘩の域で
別れ話でも出たのかもしれない。
だって、あの頃の姉は頻繁に外泊をしていた。
大方、姉と一那は些細な犬も食わぬような諍いでもあったのだろう、
それが私を当て馬にした事で拗れてしまったのかもしれない。
本来だったら直ぐに仲直り出来る筈が、お互いに意地を張って・・・

何故なら姉はたまぁに意地っ張りな所があったし、一那も頑固な所がある。
それが私と言う枷が余計拗らせてしまったのかもしれない。
そう考えると全てがしっくりくる。
「っつ・・・」
何故だろう、しっくりきたのに胸が痛くて苦しくて息がしずらくて
涙が勝手に流れる。
どうして、わたしが選ばれるなんて思ったんだろう・・・
そればかりが私の頭の中を駆け巡る。
< 44 / 100 >

この作品をシェア

pagetop