目覚めたら初恋の人の妻だった。
こんな顔をさせたかった訳じゃない。
あのキスの翌日に泣き腫らした顔を見て
”俺ならこんな顔させない! 笑顔一杯の毎日を与えられる”
そう思ったのに。
柚菜の今の顔はあの時の顔より苦しそうだった、その原因は紛れもなく
俺だった。
まさかこんな顔を俺がさせてしまっていたなんて…今の今まで考えも
しなかった自分の浅はかさが恨めしい。
「もう、香菜と2人で会わない・・・・」
「だから?」
その言葉が俺を打ちのめす。
まだ何処かにそう言えば許してくれると思っていた。
不倫していた訳じゃない、やましい事も無いのが証明され、
お互いに恋愛感情が無い事も口にしている。
なのに・・・柚菜はさっきと何も変わらない表情。
自分の心臓が服の上からも早鐘のように打っているのが見て取れ、
指先は更に冷たくなる。
「この間、仕事が早く終わり、一那に会いたくて会社に行ったの。でも、
終業前だったから会社前のカフェで時間を潰していたのよね
時間になったらメッセージを送るつもりで。
翌日の仕事の資料を読んでいたら少し時間が過ぎて慌てて
メッセージを送ろうとしたら、一那の会社の女子社員が何時の間にか
近くに居たわ。
その子達がね 話し始めたの一那の事を。
最初は私の知らない一那の話しを聞けて嬉しかった。
でもね、その中の1人が誰も見た事が無い一那の妻を2回見たと
話し始めたのよ。
1回目がホテルで2回目は私が事故に遭った日に会社に来ていたと。
そして、それを裏付ける様に私達の前を一那とお姉ちゃんが
タクシーに乗って去っていったわ。
そこに居た人達が全員妻だと思ったのは私じゃないのよ。
そして、その日 私は記憶を取り戻した
思い出したのよ事故の日を、あの日も、私は2人が仲良く
夜の街に消えて行くのを見送った事をね。」
「「・・・・事故の日・・・会社に・・・・」」
香菜と視線が合った・・・
よもやあの事故のきっかけが自分達だったとは今の今まで思いもしなかった。
確かにどうして柚菜が自宅とは違う方向に向かっていたのか疑問だった。
もし、あの日 香菜と会わなければ、もし、もし、
柚菜が隠したがる裸体は事故の傷を隠す為。
その無残な傷口を思い浮かべ、あの無数の傷は俺が間接的にでも
負わせてしまった傷なのか
うら若き女の子が背負っていいい傷じゃない。
俺は知らなかったとは言え、柚菜の心も身体も傷つけた男だったとは。