目覚めたら初恋の人の妻だった。

「柚菜、謝って済む事じゃないことは解っている。
昔は柚菜も香菜も同じくくらいに大事にしていた妹みたいな幼馴染だった。
だけど、柚菜が小学校の高学年になる頃から、うちの学校に行事の度に
柚菜のファンが増えて、イライラしてこれが恋だと気がついた。
柚菜が小5で俺が中三。 フッ 可笑しいだろう・・・その時から
俺にとって柚菜は女で、香菜は妹だった。
勿論、あのキスは不意打ちだったけれど、やっぱり欲情なんかしないで
妹との事故みたいにしか感じなかった。
香菜も俺に欲情しないと言っていたし、
そこに何の感情も生まれなかった。でも、見ていた柚菜には
そんな事解る訳無いよな!
香菜を妹以上に見た事が無いから、柚菜のお姉ちゃんだから、だから
俺に出来る事は助けようと思った。それは自分の中でどうしても
常に柚菜を優先していて申し訳ない気持ちもあったから。
香菜が困っていて、俺でどうにかなるなら助けようと考えていた。
本当に妹にしか思っていなかった・・・」

柚菜は俺の胸に手を当て少し 離れようと力を込めたが、そんな事
させたくない 更に力を込め、閉じ込めた
諦めたのか 胸の中から、くぐもった声で

「そんな事、だけどとても大事な事を私達は話し合った事なかったね・・・
私は何時もお姉ちゃんの影に怯えていたの。
初めて一緒に出掛けた遊園地で何度も聞こうと思ったの
『お姉ちゃんを置いて来て良かったの?喧嘩しているから
私を連れて来たの?』ってね。でも、あの日
私はとても辛い事が前日にあって落ち込んでいたから
楽しい気分を手放したく無かったの
だから そのまま目を瞑ってしまった。」
「あの前日、俺は柚菜が家の前で男とキスしているのを見たんだ・・・」
「「え・・・」」

柚菜と香菜が同時に声を発した。
柚菜は狼狽えているのか、俺の胸に置いた手をギュと握るのが解った。

「俺は俺で、あの男の影に怯えていた・・・」
「一那・・・」
「アイツ、高校の数学教師だろ?」
「どうしてそれを???」
「柚菜が高2の時に体調を崩して学校を休んだことがあったの覚えている?
あの日、柚菜が心配で逢いに行ったんだ、テラスで柚菜は女友達と
話していたのを偶然聞いてしまった。」

香菜もあの時一緒にいた。
だからか香菜は”ハッ”っと息を呑み、

「柚菜のファーストキスの相手ってあの時に話していた数学の先生なの?」
「そうだよ・・・卒業して大学に通うようになってから、T大出身の
先生とキャンパスで偶然会って・・・それが何度か続いて・・・」
「柚菜がカズ君と遊園地に行ったのって9月だったよね
結構長く付き合っていたんだね?」

疑問とも確信ともいえる口調で香菜が独り言ちる。
”ズキン”と痛む胸。
“長く”に傷ついたのか”付き合って”に傷ついたのかは解らないけれど胸が痛む。

今、俺が傷ついて良い時じゃない・・・泣きたいのは俺じゃない。

そんな事は解っていてもどうにもならないのが恋や愛なんだろう
柚菜は何日も苦しんだ  そして1人で解決しようと此処に立っている。
此処に立つまでの勇気や覚悟を今の俺に同じように持てと言われても
多分無理だ。

だから痛いほど柚菜の気持ちが解る。そして謝っても謝っても足りない事も。

今はこの腕の中に強引に縛り付けているけれどもし少しでも緩めたら、
もし、この手を離したら柚菜は二度と俺の腕の中に取り戻す事が
出来ないと解る。
だからどんな事をしても、どんな卑怯な手を使っても、無様な姿を晒しても
柚菜を離してあげられない

柚菜ゴメン、卑怯な俺かもしれない迷惑な愛情かもしれない、
可笑しな執着かもしれないでも、どうしても柚菜と一緒に歩めない
未来は要らないんだ。
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