目覚めたら初恋の人の妻だった。
「あの夏の日、何時もと変わらない午後を過ごしていたんだ。何時ものように
はしゃぎ過ぎた柚菜が疲れて昼寝をするのも毎度の事だったよね。
それを俺達が宿題をしたり、おやつを食べたりして起きるのを待つのも
当たり前の風景だったね。
あの日も何も変わらない1日が過ぎていくと思っていたのに、突然
何の前触れもなく香菜が俺にキスをした。」
「なんで なんで 今更 そんな話をするの?」
「俺達が拗れてしまった最大の原因がそれだからだよ。あの時の事をキチンと
説明しないで今日まで、なあなあにしてきた結果、一番恐れている事態に
なりたくないんだ。」
何よりも俺が1番恐れているのは”離婚”の二文字。
折角、何年も何年も思い続けて手に入れた柚菜。
今、その柚菜が俺の指の隙間から砂の様にサラサラと零れ落ちて
消えてしまいそうだ。
一緒に居れれば未だ可能性が少しでも残る。
でも、離婚なんてことになったら2度と柚菜と会えない事は本能で解る。
だって、あの中学2年の夏からキスをしているのを目撃したあの日までに
柚菜と会えたのは数える位だった。
柚菜が決意したら顔さえ見る事も出来なくなってしまう。
「突然のキスに俺自身も茫然としてどうして良いか解らなかったし、
香菜の真意が見えなくて・・・動揺した。
香菜から好意を感じた事が無かったのは自分が柚菜ばかり見ていたせいなのか?
なんて頭の中をグルグルして、言葉が出なくて・・・
もし、これを柚菜が見ていたら?
平然としている様に見えてたかもしれないけれど、本当はパニックだった。」
「確かに、一那もお姉ちゃんもキスの後に平然としていたから私はこれが
私の居ない時の日常なんだと思ったの。私が恋人同士の邪魔していたんだって。
私だけ除け者にされてみたいで・・でも、仕方が無いのかもと何処かで
納得出来たような気持ちもあったの。
私は余りにも幼かったから。どんなに一那を好きと
口にしても、一那ははぐらかしていたのは私に対する思いやりだったと
あの時、ストンと納得出来たような気がしたの。」
「違う! あの頃、柚菜の告白をはぐらかしていたのは未だ幼い柚菜を
俺の想いで縛り付けてはダメだって思ったんだ。
柚菜の俺に対するスキは未だ、お兄ちゃんの域を出ていなかったから・・
俺は男として見て欲しかった。だから、それまでは余計な事をしないで
今の状態で良いと思っていた、
幸い、桜華は女子高で校則も厳しいから少しくらい距離が出来ても
柚菜が他に好きな奴が出来るなんて想像もしていなかった。
俺は純粋に柚菜は桜華での学園生活を楽しんでいて俺と会えない
だけだと信じたかった。
心の何処かで違うって解っていたのに認めたくなかったんだ。」
「あの頃、私は一那とお姉ちゃんの仲良い姿を見れるほど、大人に
なれなかった。苦しくて切なくて・・ご飯も食べれなくて、寝れなくて
ボロボロになっていたのをお母さんが一那から距離を置くのが最善と判断して
ホームスティとうい形で心を救ってくれた。」
「大人になんてなって欲しくなかった。無邪気な儘の柚菜で居て欲しかったのに
それを俺が奪ってしまったんだな。」
「大人になんてなれなかったよ。ただ、その環境に慣れるのに精一杯で
何も考えなくて済んだだけ・・・だから日本に帰って来ても、2人の姿を
見るなんて出来ないから、避ける様に生活していたの。」
「やっぱり そうだよね・・・会わないなんて不可能なのに会えなかったのは
避けられていたのか・・」
そんな気はしていたし、理由も解ったけれど悪戯に傷つく心。
自分のせいなのに・・・理不尽だと思ってしまう。