目覚めたら初恋の人の妻だった。

「香菜が俺にキスしたのは男とキスしてドキドキするか確認したかったんだよ。
キスして茫然としている俺に平然と言ったから なんて言うか安心した。」
「安心した??」
「そう、だって 俺は香菜に異性を感じた事が無くて、柚菜のお姉ちゃんだから
そんな感情を持たれても困るって思ってしまったんだ。だから香菜が男に興味が
湧かないとカミングアウトされてその真実に驚くより安堵したんだ。
柚菜と一緒になるのに不安材料を一つでも潰しておきたかったから。
俺にとって柚菜以外から向けられる好意は迷惑でしか無いんだ。」

こうやって1つずつ擦り合わせていたら俺達の仲もここまで拗れる事は
無かったかもしれない。
今更ながら後悔しか残らないが、もうこれ以上同じ間違いを
犯したくなかったから全ての懸案を擦り合わせようと思った。

「香菜はクラスで少しずつ浮いていたみたいなんだ。多分、自分が
他人と違うって意識をしていなければ気にしない事も、少し違うかも?
と考えていた香菜には香菜に向けられる言葉が棘の様に
刺さっていたんだと思う。」

「桜華では先輩に手紙を渡したり、好意を告白する事も、人気の先輩は
ファンクラブもあったからお姉ちゃんの憂いって・・・・」

「そうか、女子校って噂通りの風潮があるんだね。共学の女子の世界はそうは
いかないのかも知れないな・・・・そんな話を女子としたことが無いから
推測でしかないけど
香菜の方が桜華に合っていたのかもしれないな。」

「女子高は女子高で大変なんですけどね。」

「解っているよ・・・ただ、共学のカレカノの話が日常化している世界は
香菜にとっては苦痛以外の何物でも無かったみたいだったからさ。」
「彼氏が居ない人だっているでしょ?」
「負の感情を持っていると、そこは目が行かなくなるんじゃないかな?
”辛い”って言っていたし、毎朝電車を降りて校門が近づいてくると
ドンよりしていたから。」

何も反応しない柚菜に不安になり、顔を覗き込むと難しい顔をして、
何かを考えている様だった。
裁判の資料を読みこんでいる時にする顔をしている・・・
何を考えているの??
自分が口にした事で柚菜を不快にさせてしまったのだろうかと不安になる。

「柚菜???」
「あ、ゴメン。ちょっと色々考えていて・・・」
「なにを???」
「大したことじゃない・・・」
「言って・・俺、これ以上すれ違いたくないから・・」
「一那に相談して問題は解決出来たのかな?って思って・・・」

「多分、柚菜が見た直後に 香菜が淡々と自分の話をしだして、で
香菜は『カズ君は柚菜を好きだよね』って断言されて、だから女子と
付き合わなくなったよね?と色々な事を見透かされるように
口にされてパニックになった。
だから柚菜が大学に入るまで自分と一緒に居てくれたら
俺が日々悩まされている女子からの告白も減るんじゃない?
そして私も変な噂が流れなくて一石二鳥だと。

最初はそんな上手くいかないし、柚菜が大学に入って来て俺が柚菜と付き合い
だしたら変な噂になるからイヤだって言ったら、お互い聞かれたら
”幼馴染だから仲が良い”って事にして、柚菜が大学に入ったら
”私はお目付け役だったんだよ”で済むからって言われて、女の子からの
誘いにいい加減ウンザリしていた時期だったし、柚菜の大事なお姉ちゃんを
助けたら柚菜は喜んでくれるって何故か思っちゃったんだ。」

こうやって誰かに話すとその提案事態が凄く可笑しい事に気がつく
得をするのは誰も居ない・・・
香菜だってもし、学園で好きな人が出来ていたら、誰かが香菜を良いと
想ってくれる人も居たかもしれない。
そのチャンスを潰していた。

その一瞬だけ、嫌な思いから逃げれれば良いと安易にお互いが
思ったからだ。

逆に柚菜が誰かとそんな関係を続けていたら、それが解っても
俺はそいつに嫉妬しただろう。
好きでも無いのに一緒に居る権利を俺から奪うなと。

自分の中で正義で人助けをしていたという奢りに自分自身が
酔っていただけだ。

「こうやって柚菜と話すと香菜の問題は解決出来ていなかったね」

「そうだね だから社会人になっても同じ問題で一那を頼ったんだよ」

「フッ 俺 バカだな・・・助けたつもりで優越感に浸って
結果、柚菜を傷つけただけ。

お願いだ   俺と離れると言う以外の事なら何でも柚菜の
言うとおりにするから  だから 土下座しろって言うなら
毎日でもする! スマホも好きな時に見ても構わないし、
家のタブレットと同機しても構わない!
香菜と二度と口も利かないし、遣り取りもしないし、会わない。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

長い長い沈黙・・・
罵ってくれた方がどれほど救われるか、沈黙がこれほど怖いモノだと
初めて知った。

「   じゃあ   」



ー 一那side 了 ー































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