目覚めたら初恋の人の妻だった。
私以外は何時もの夏のバカンスが過ぎていくと思って向かった
見慣れた風景。
私はこのバカンスの間でカズ君と距離を縮める作戦を期末テスト勉強を
そっちのけで対策を練っていた。
考えた結果、先ずは自分を1人の女性と認識して貰わないと始まらない事に
色々な幼馴染関連の恋愛漫画、小説を読んで結論付けるに至った。
だから洋服も水着も女性らしいラインナップにしたのに
カズ君の瞳に新しい私は相変わらず映っていない現実
それどころか、何時もと同じような格好をしている子供っぽい
柚菜の服を「似合っているね」って褒めているのを聞くと
胸が締め付けられて痛くて目頭が熱くなる。
初恋とはどうしてこんなんに辛いんだろう
遊びに行ったホテルのプールでは柚菜はスクール水着に毛の生えたような
シンプルな水着に幼児体型を包んでいるだけなのに
カズ君の視線は他の男をを牽制している。
『そんな柚菜に誰も興味なんて示す訳無いのよ!
明らかに幼児体型の柚菜なんて見つめないで私を見て!』
その願いも虚しく視線は柚菜を追う。
『止めて!止めて!そんな目で柚菜を追わないで!』
悲痛な心の声が届く事は無かった。
2人っきりになりたいのに何時も柚菜が居る。
当たり前の様にカズ君に纏わりついて、「カズ君、カズ君」と
呼び、その声に応えるカズ君にもイライラしていた。
焦れば焦る程に空回りしてしまう現実に心が折れそうになった時に
チャンスが降ってわいてきた。
別荘に戻りプールで遊びつかれた柚菜が昼寝をする為に居室に向かい
大人たちは涼しいリビングで寛いでいるのを確認し、
私は柚菜が起きてきたら直ぐに遊べるように庭で待たない?と
カズ君を誘うとき
”柚菜が”って言うワードに弱い事を知っていて誘ったら案の定
カズ君は何の疑いも持たないで庭に用意された
ガーデンテーブルの席に腰を沈め、
お手伝いさんが用意したアイスティーにも手をつけないで
物思いに耽っている。
その横顔を見ながら何を、誰を想っているか悲しいかな解ってしまう程に
私はカズ君が好き。
心が手に入らないのなら・・・
そう、思った瞬間に私は彼の唇を奪っていた。
もし、柚菜とカズ君が何時か結ばれてキスをした時に
柚菜よりも私の方が先にカズ君のキスを奪ったという事実が欲しかった
でも、一瞬でその判断を行動を後悔してしまう。
だって大好きな人の瞳には戸惑いと嫌悪感が浮かんでいたから
あ~私は失敗してしまったんだ。
気がついた時には遅かった。
幼馴染のポジションも妹のように向けられていた愛情も
失ってしまったのだ。
だから咄嗟に嘘をついてしまった。
男性に興味が無いと・・
明らかに安堵した顔のカズ君に心がズキンと痛む。
そんなに嫌だったの?
あんな風に拒絶と蔑みの目を向けられたばかりだから
聞ける訳無いけれど もしこれが柚菜がしたらそんな瞳を
向けた?
柚菜が男性に興味が無いと口にしたらそんな安堵な表情を
浮かべられた?
例えようもない感情が私の中に巣食う。
それはきっと今まで以上に柚菜に対する対抗心へと
変わっていくのを自分自身が自覚した瞬間でもあった
可愛い妹だったのが何時の間にライバルへと変わった
妹本人は無自覚のまま。
解っている八つ当たりだって。
でも、拗らせてしまったカズ君への思慕をこういう形でしか
受け入れられなかった。
だから、長引く昼寝を心配したカズ君について柚菜の元を
訪れた時に見た腫れた瞼を見た瞬間に、勝てた!!そう思ってしまった。
あのシーンを見たんだ・・・
私はあの時に妹に真実を話すのを止め、姉という立場を捨てた。
カズ君に柚菜が見た事を教える代わりに真実を隠し、カズ君を柚菜が
異性と見ない様に兄と言うポジションを植え付けた。
私の純粋だった恋心は藻掻き苦しんで決して叶う事の無い恋心に
変えてしまった。
好きと言う気持ち、見て欲しい 振り向いて欲しいと言う気持ちは
叶わなくても良いから傍に居たいの欲求だけになって
身勝手な想いになり、相手の気持ちを利用する
傍から見たらみっともない姿の幼馴染に映っていたのだろう。
カズ君の優しさは変わらなかったが、彼の友達は明らかに私を
蔑んでいた。
解っていたけれど止められなかった。